ヘルメットを叩けば判定が覆る?MLBの新チャレンジ制度を整理する
ロボット審判はなぜ
「補助」にとどまるのか
詳細はこちら(MLB公式・日本語)
ABSとは、各投球のボール・ストライク判定を追跡するシステムだ。打者ごとの身長を基準にストライクゾーンを設定し、投球がそのゾーンを通過したかどうかをカメラで計測する。結果は球場のビジョンと中継映像にほぼ即時で表示される。
2022年にフロリダ州リーグ(マイナー)でチャレンジシステムとして試験導入が始まり、2023〜2024年は3Aで運用。2025年のメジャー春季キャンプでも試験が行われ、2026年の本格導入に至った。昨年9月に合同競技委員会が承認している。
ABSのストライクゾーンは2次元で設定されている(3次元も検討されたが変化球の判定にばらつきが生じたため廃止)。測定基準は選手の身長で、春季キャンプに参加する全選手を靴なしで独立した検査チームが実測する。
| 項目 | ABSゾーン | 人間の球審(従来) |
|---|---|---|
| 横幅 | 17インチ(43.18cm) | 同じ |
| 上端 | 身長の53.5% | 最大55.6%(より高め) |
| 下端 | 身長の27% | 最小24.2%(より低め) |
| 奥行き基準 | プレート中央 | 前縁〜後縁 |
| 2-2カウントのゾーン面積 | 443平方インチ | 449平方インチ(やや広め) |
(2025年春季キャンプ 288試合)
平均時間
(3Aは50%)
マイナーリーグでは「フルABS(全投球を自動判定)」も試験された。しかし結果は好ましくなかった。四球が増加して試合が長引き、ピッチクロック導入で短縮してきたペースの効果が相殺されてしまった。また、捕手が長年培ってきたピッチフレーミングの技術が無意味になるという問題もあり、選手からの支持を得られなかった。
一方、チャレンジシステムはファン・選手・監督から明確に支持された。2025年春季キャンプ終了後のファン調査では72%が「試合体験に好影響があった」と回答。69%が「ABSを維持したまま継続してほしい」と答えている。チャレンジ制度は”人間の審判をなくす”のではなく、”最も重要な場面だけ正確にする”という位置づけだ。
チャレンジは失敗すると1回消費される。このため、選手はいつ使うかの判断が重要になる。レバレッジの低い場面で使い切ってしまえば、逆転のかかる終盤にチャレンジが残っていないという事態もあり得る。
一部チームはすでに「投手によるチャレンジを禁止し、捕手の判断に一任する」方針を示しているという。捕手の視点から見れば球筋を最も正確に把握できるという判断だ。チャレンジの判断力・成功率は、Baseball Savantでデータとして公開・蓄積される。フレーミングに続く新しい捕手評価指標となりそうだ。
メキシコシティ・シリーズ(ダイヤモンドバックス対パドレス、4月25〜26日)、フィールド・オブ・ドリームス・ゲーム(ツインズ対フィリーズ、8月13日)、リトルリーグ・クラシック(ブルワーズ対ブレーブス、8月23日)。いずれもMLB球場以外での開催のため、システム導入のインフラが整備されていない。
現時点でNPBへのABS導入に関する公式発表はなく、具体的なスケジュールも存在しない。最大の障壁はインフラだ。ABSの稼働に不可欠なホークアイカメラがNPBの全球場に設置されているわけではなく、さらにNPBはMLBと異なり地方での遠征シリーズなど本拠地以外での試合も多い。それらの球場への臨時設置を含めた体制整備が必要になる。
参考になるのが韓国のKBOリーグだ。KBOは2024年シーズンからすべての投球を自動判定するフルABSを本格導入しており、MLB型のチャレンジシステムではなく「球審がイヤホンで判定を受け取りコールする」方式を採用している。MLB・KBOと主要リーグへの導入が進む中、NPBがいつ、どのような形で追随するかは今後の注目点のひとつとなっている。