プロローグ:11月の静寂から始まる戦い
日本シリーズの歓声が球場から消え、ストーブリーグの話題が新聞紙面を賑わせる頃、プロ野球選手たちは既に次なる戦いへの準備を始めている。契約更改という現実と向き合い、FAや戦力外通告といった残酷な側面を目の当たりにしながら、生き残った選手たちは各々の場所で冬の汗を流し始める。
この11月から2月のキャンプインまでの約3ヶ月間は、プロ野球選手のキャリアにおいて極めて重要な期間だ。シーズン中の143試合という長丁場を戦い抜くための土台を作り、技術的な修正を施し、そして何より「プロとしての自分」と対峙する時間でもある。華やかなシーズン中の活躍の裏側には、この地味で孤独な冬の戦いがある。
自主トレという名の「自由と責任」
「自主トレ」という言葉には、ある種の矛盾が内包されている。文字通り「自主的なトレーニング」でありながら、実際にはプロとしての義務であり、この期間の過ごし方次第でシーズンの運命が決まると言っても過言ではない。球団から離れ、個人の裁量に委ねられるこの時間をどう使うか。そこにプロフェッショナルとしての真価が問われる。
自主トレの形態は選手によって実に多様だ。沖縄の温暖な気候の中、ベテラン選手を中心に10人以上が集まる合同自主トレもあれば、アメリカやドミニカ共和国で最新のトレーニング理論とメジャーリーグのノウハウを吸収する選手もいる。あるいは、地元の高校や大学の施設を借りて黙々と一人で調整を続ける選手もいる。
近年特に目立つのが、科学的アプローチの浸透だ。かつては「走り込み」と「素振り」が冬場のトレーニングの代名詞だったが、今や状況は様変わりしている。トラックマンやラプソードといった計測機器を用いた投球分析、モーションキャプチャーによる打撃フォームの解析、心拍変動を利用したコンディション管理など、テクノロジーを駆使した準備が当たり前になった。
しかし、科学が万能というわけでもない。データに頼りすぎて感覚を失った選手が、シーズンに入って調子を崩すケースも少なくない。ベテラン選手の中には、あえて計測機器を使わず、長年培ってきた体との対話を重視する者もいる。自分の体のどこが疲れているか、どの筋肉が張っているか、どのタイミングで負荷を上げるべきか。そうした身体感覚こそが、143試合という長いシーズンを乗り切る鍵になると考えるのだ。
世代による自主トレ哲学の違い
若手選手とベテラン選手では、冬の過ごし方に明確な違いがある。それは単なる体力差や経験値の問題ではなく、自主トレに対する哲学の違いと言える。
20代前半の若手選手は、とにかく量をこなす傾向が強い。朝6時から夜7時まで、ウェイトトレーニング、走り込み、ティーバッティング、キャッチボールと、びっしりとメニューを詰め込む。「やればやるほど強くなる」という信念のもと、時には過剰なまでのトレーニングに励む。それは若さゆえの体力があってこそ可能な戦略だが、同時に怪我のリスクとも隣り合わせだ。
一方、30代後半のベテラン選手は驚くほど効率的だ。午前中の2時間で必要なトレーニングを終え、午後は体のケアと休息に充てる。彼らは長年の経験から、自分の体がどのタイミングで最も効率よく成長するか、どこまで追い込んでいいか、いつ休むべきかを熟知している。
量から質へのシフト。それがベテラン選手の領域に達するということなのかもしれない。
メディアという観客席
自主トレ期間、選手たちは球団の管理下から離れているが、完全に自由というわけではない。そこには常にメディアの目がある。スポーツ紙やテレビ局の記者たちは、寒風吹きすさぶ早朝の練習場に足を運び、選手の仕上がり具合や新たな取り組みを取材する。
一方で、メディアとの関係を上手く利用する選手もいる。自主トレの公開日を設定し、計画的に情報を出す。SNSで練習風景を発信し、ファンとの距離を縮める。プロ野球選手は競技者である以前に、エンターテイナーでもある。冬場の情報発信も、現代のプロ野球選手に求められるスキルの一つなのかもしれない。
ケーススタディ:近藤健介選手の冬
2024年のパ・リーグでMVPと首位打者を獲得したソフトバンクの近藤健介選手は、自主トレに対する独自の哲学を持つ選手として知られる。彼が毎年自主トレを行う場所は鹿児島県の徳之島で、2026年1月で9年目を迎えた。近藤選手は「年々環境を整えてもらい、ここ(天城町)で1年が始まるなという思いで気持ちのスイッチが入る。そういうところにここでやる意味がある」と、この地での自主トレが自分にとってのシーズン開幕を告げる儀式のようなものになっていることを語る。
2026年1月の自主トレには、他球団の選手7人が参加した。「近藤塾」とも称されるこの合同自主トレは、単なる練習の場ではない。異なるチームの選手たちが切磋琢磨し、技術を高め合い、そして野球観を共有する場となっている。
そして2026年、近藤選手にはもう一つ大きな目標がある。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)への出場だ。日の丸を背負いたいではなく、背負わないといけない。この責任感こそが、近藤選手を突き動かしている。「選んでもらえたら、まずは元気な体で合宿に行けるように。やってきたものをしっかり出せる準備はしている」。
エピローグ:冬は嘘をつかない、しかし全てを語るわけでもない
3月末の開幕戦。満員の観客の前で、選手たちはついにその成果を披露する。一球一球、一打席一打席に、冬の努力が込められている。ファンが見ているのは華やかな試合だが、その裏には誰も見ていなかった冬の孤独な戦いがある。そう思いながら球場に足を運ぶと、選手たちの姿が少し違って見えるかもしれない。冬を知る者だけが理解できる、プロ野球選手の真の姿が、そこにある。
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